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異世界召喚
家を出てから数分後の午前8時10分、俺は学校の近くにいた。
この学校は家から近いところにあるので、歩きで登校している。
「今日は誰もいないといいけど……」
俺は小声で独り言を言う。
須賀咲第一高等学校に向かって足を進めている者、車で学校に送られている者など様々な方法で生徒が登校する中、俺は一人だけ時間が経過するのを遅く感じていた。
学校の門までおよそ二十メートルのところで俺は心を落ち着かせるために目を閉じる。
「――ふぅ」
俺は素早く呼吸をして歩き出す。
一呼吸はついたものの、心臓の動悸はまだ治まってはいないようだ。
俺は学校の門に到着した。
「誰もいないな……」
俺は胸をなでおろすように大きく息をつき、学校の中に入っていく。
門の中に入っていくと、男子生徒に突然硬いもので後頭部を殴られた。
「……うぅ……」
俺の目の前はみるみる真っ暗になっていく。
***
目を覚ますと俺は床に寝そべっていた。
俺は顔を左右に振って辺りを見渡す。見渡してみるとバレーボールのボール入れや跳び箱などの体育の授業で使うものが置いてあったので、ここは体育倉庫であることが分かる。
俺は体の自由が全く聞かないことに気づいた。
紐や何かで縛られている……
「無様だな!! 下民!!」
俺は顔だけを声の方に向ける。
声を掛けてきていたのはこの学校に融資をしている五家の跡取り息子の一人、藤堂礼二だ。
そのため先生たちも迂闊に注意することができない。
それをいいことに学校では好き勝手にしている。
藤堂には二人の部下がいる。
「礼二様! こいつどうしましょう!」
「下民に格の違いを教えてやれ!」
「了解!」
俺は意味もなくぼこぼこに殴られる。
俺がお金持ちの家の生まれではないのを口実に、藤堂らに中間テスト後からずっといじめられていた。
いじめられていた最初は言い返していたのだが、それは失敗で最終的に悪者になるのは俺だった。
その経験を何度もしていたので、俺はどうせ言っても無駄だと思い言い返すことを一切やめた。
権力と言うのは恐ろしいものである……
「なんも言わねぇのか!! つまらんなぁ!! お前たちこいつの紐をほどいて膝立ちにさせろ!!」
「了解!」
俺は両手を二人に拘束され膝立ちなる。
藤堂は体育倉庫の奥から金属バットを持ってくる。
藤堂は俺の腹部をバット先端で突く。
「……うっ!」
俺は急に気分が悪くなり、腹の底から悪心がせり上がってくるのを感じた。
二度目の衝撃が俺の腹部を襲う。
俺は両手を前につき、胃の中にあるものを戻してしまった。息を整えたが次の悪心が容赦なく俺を襲う。俺はそれに任せて吐いた。
「うわぁ~きたねぇなぁ!! 下民にはお似合いだけどな!!」
藤堂らの嗤う声が体育倉庫に響く。
「飽きた! 今日はやめよっと! 財布だけは貰ってくな!」
お金に困っているわけでもないのに取ってくとは……
藤堂らが体育倉庫を去ろうとした瞬間に扉が開く。
「お前ら何やっているんだ!!」
「これはこれは天沢光瑠さんではないですか、この下民に格の違いをしてただけですよ!」
体育倉庫に来たのは、この学校で唯一心を許せる親友の天沢光瑠だった。
光瑠はぎゅっと握りしめた手足を周りに見られないように隠していた
「一方的にいじめてただけだろうが!!」
「それは心外ですねぇ! 下民がこんな学校に来るのがいけないのですよ!」
「お前が湊に成績勝てないからってやきもちを焼いているだけだろうが!」
「なんだと!?」
藤堂は眉間にしわを寄せて光瑠を睨んでいた。
「ずぼしか!! 次にこいつに手を出してみろ!! ただじゃ置かねぇぞ!!」
「……ちぃ!」
藤堂らは体育倉庫の入り口に向かって歩き出した。
「おい!! 手に持っているものは置いてけ!!」
「……」
藤堂は無言のまま俺の財布を投げ捨てる。光瑠はこの学校に一番融資を行っている天沢グループの跡取り息子なので、権力をかなり持っている。
おそらく学校で一番権力を持っているのは光瑠だ。
「大丈夫か、湊」
光瑠は先程打って変わって、まぶしくて清らかで、泣かせるほど切なくて、健やかな天然の笑顔を俺に見せてくれた。
「……ありがとう」
俺も無理して笑う。全身に激痛を感じているのでこれが精いっぱいだった。
「しょうがないなぁ……」
光瑠は床の掃除をした後、俺を背負って保健室まで連れて行ってくれた。
***
時刻は午前9時50分、俺は保健室のベットの上で目を覚ました。
光瑠に背負われている間に気絶をしてしまっていたらしい。
一時間目はもう終わってしまった……
「目を覚ましたかい」
「……はい」
保健室の先生に声を掛けられた。
「奇跡的に骨は折れてなかったからもう授業に戻れるよ」
「……ありがとうございます」
「いえいえ」
保健室の先生にお礼を言ってから教室に戻ろうとしたとき、保健室の扉が勢いよく開く。
「湊君! 大丈夫だった?」
「……なんとか……」
「よかったぁ~!」
勢いよく入ってきたのはレティアだった。なぜかは分からないが転校した当初から俺のことを気にかけてくれている。
「もう授業に戻れそう?」
「……はい」
「じゃぁ! 行こっか!」
「一緒にですか?」
「そうよ……ダメだった?」
「いや……別に……」
レティアは基本的には男女差別することなく平等に振舞うので問題はないのだが、この学校で首席を取っていて一番美人のレティアが一般家庭生まれの俺と一緒にいると周囲の生徒から鋭い視線で見られる。
正直すごくきつい……
それでも断るのは失礼に値するので、一緒に行くことにする。
こんな調子でレティアにはよく振り回されるのだ……
教室に戻り授業を受けている最中もチラチラ見られており、それに気づいたクラスメイトの視線が痛い……
俺はとうとう耐れなくなって、異世界に行って人生が変わったという内容のアニメのことを頭に思い浮かべていた。
完全にメンタルがやられてしまった……
俺を現実になるはずはないが、異世界に飛ばしてくださいと願ってしまった。
次の瞬間、俺の足元に魔法陣のようなものが出現した。
「……うそでしょ……」
俺は目の前で起こっている現象を見て、神隠しあったみたいにぽかんとした顔つきになっていた。
次第に俺は光に包まれていく。
意識が遠のいていく、暗い闇の底に……
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