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異世界に降り立つ
日月暦100年4月10日、午前8時。
俺は微量な光が瞳に入ってきたので、瞼を開ける。目を覚ましたのは、少ない明りしかなく薄暗い空間だった。
俺は仰向けの状態から、ゆっくりと上半身を上げると魔法陣の上にいた。
目線を下に向けてみると、レティアと光瑠も俺と同じように気を失って倒れていた。
俺が異世界に行きたいと願ったせいで、二人を巻き添えにしてしまったようだ。
申し訳ないと思っている……
「……うぅぅ……湊君……」
レティアはとろんと眠気の残った声を出していた。
「ごめんなさい……レティアさん……俺のせいで異世界に飛ばされてしまった……」
「異世界……?」
「本当にごめんなさい……」
レティアも自分が異世界に飛ばされたことを一瞬で理解したようだ。
「湊君たら……謝ってばっかり……」
「だって……」
「湊君! わたしは全然気にしていないから大丈夫だよ!」
「……え?」
「だから気にしていないよ! それよりも湊君と一緒に飛ばされたから嬉しいよ!」
レティアは俺が謝罪したのがばからしく思える程の仏の笑みを見せてくれた。
「よかったぁ……怒っていなかった……」
俺は胸の中から最後の空気を吐き出すように呟く。
「何か言った……?」
「いや……別に……」
俺は顔を祠ばせながら答えた。
第三者から見たら何か隠しいているように見えるかもしれないが、レティアはこれ以上突っ込んでくる様子はない。
そんな話をしていると光瑠も目を覚ます。
「……ここは……?」
「俺のせいで異世界に飛ばされてしまったみたい……ごめん……」
「湊のせいじゃないだろ」
「でも……俺が願ったから……」
「もともと異世界に飛ばされると決まっていたんだと思うけど……」
大手ゲーム会社の跡取り息子の光瑠に言われると説得力がある。
光瑠は両親の手伝いで、ゲームシナリオを考えたりしているみたいだ。
その知識を生かしてwebに小説を投稿しているので、光瑠の発言には真実味がある。
「皆様お目覚めですか?」
不意に少女の声が一筋の風のように響いてくる。
俺たちは声のする方に顔を向ける。
そこに立っていたのは高そうなドレスに、頭に髪飾りをつけている少女だった。見ただけで高位の身分だと言うことが分かる。
「はじめまして、わたしはレティア=ローゼンハイツと申します」
レティアが明るい表情をしながら、右手を差し出す。
「アリヤ王女殿下に無礼ですよ!」
少女の隣にいた三十代後半くらいで、見た目からすると強そうに見えない男性が言葉を発した。
「いいのですよ! ルドラル!」
「分かりました……」
アリヤ王女の執事だと思われるルドラルは一礼をして一歩下がる。
「はじめまして、私はアリヤと申します」
アリヤ王女はレティアの手を握り返す。
俺と光瑠はレティアに自己紹介するように促された。
「市ヶ谷湊です。よろしくお願いします」
俺は心臓の動悸を抑えながら素早く瞬きをして自己紹介をした。
「俺は名前は天沢光瑠です。よろしくお願いします」
光瑠は一瞬顔にぎゅっと皺を寄せてから、落ち着こうと元に戻していた。
レティアと光瑠の間には何かがありそうな雰囲気だ。
俺と光瑠はアリヤ王女に向かってお辞儀をする。
レティアみたいに手を握るのはさすがに失礼だと思うので、それはしなかった。
「こちらこそよろしくお願いします。レティア様、光瑠様、湊様」
アリヤ王女も深々とお辞儀をしてくる。
王女様なので、礼儀正しい。小さい頃から教育を受けてきたのだろう。
俺には全く無縁のことなどで、想像することしかできないのだが……
レティアも初対面の人にあそこまで接近できるとは凄いと思う。
俺は初対面の人にあそこまではできない……
さっきから視界に入っていたのだが、薄暗い空間の中で複数の男たちが拘束されており、全員が気を失っている。
俺は不安要素を取り除くためにアリヤ王女に質問をする。
「さっきから気になっていたのですが……そこの人たちは誰でしょうか……?」
答えたのはアリヤ王女ではなくルドラルだった。
「この人達ですか……アリヤ王女殿下に代わって私が説明します」
「お願いします……」
「こやつらはあろうことかアリヤ王女殿下の命を狙いました。そのため静かになってもらいました」
「なるほど……」
見た目は弱そうに見えるのにルドラルは凄腕だということが分かった。
王女の執事になれるくらいなので強いとは思っていたが、この数を1人で倒すなんて……
人は見た目によらないものだと実感した。
「アリヤ様! 私たちがここに呼ばれた理由は何ですか?」
レティアは今この場にいる俺と光瑠の気持ちを代弁してくれている。
俺と光瑠もアリヤ王女の方を見る。
「詳しいことは王宮の会議室で話したいと思います。ですがいきなり詳しく説明されても困ってしまうと思いますので、軽く説明します」
「お願いします!」
アリヤ王女は俺たちが呼ばれた理由について説明を始めた。
「理由は大きく分けると二つあります。一つ目は今、私たちの国が危険な状態にあるからです」
「……どういうことですか?」
「詳しい話はこの後に会議がありますので、そこで説明されると思います」
「分かりました……」
「二つ目は能力の適性があったからです」
「能力の適正……?」
「はい! この世界には古の日月厄災の時に封印された強大な力が三つ存在します。あなた方はその能力を使いこなせることができる器の持ち主です」
古の日月厄災、三つの強大な力と言う、今後大事だと思われるキーワードが出てきた。
「古の日月厄災と三つの強大な力とはなんですか?」
レティアは俺が質問しようとしたことをアリヤ王女に聞く。
アリヤ王女はレティアの質問に答え、古の日月厄災について語り始めた。
数分が経過して、古の日月厄災についての話が終わった。
この世界にはこんな過去があったとは……
「会議室に案内する前に私からあなた方に渡すものがあります。ルドラルあれを持ってきてください」
「了解しました!」
アリヤ王女の指示でルドラルは入口の扉と逆側にもう一つの扉が存在している。ルドラルはそこに向かって歩いて行く。
ルドラルは扉を開けて部屋の中に入っていく。
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