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朝の龍白夜
会議室を出てから一時間後の午前10時半、俺たちは王宮の中にある神殿の門の前に来ていた。
門の左側には朝の龍白夜が右側には夜の龍極夜の彫刻が彫られており、真ん中にはレティアのブレスレットについている宝玉と同じ色のものが四つ、埋め込まれていた。
ただならぬ力の持ち主が門の中に封印されているので、立っているだけで息苦しくなりそうなオーラを感じる……
入ったら無事に帰ってこられるか分からないほどに……
「門を開けるにはあなた方の力が必要です」
俺たちはヴリナの言葉に頷いて、門の近くに寄る。
「門の中に入れるのはあなた方だけです。心の準備はよろしいですか?」
「はい!」
俺たちは気合を入れ直した。入ってしまうと命の保証はないと言いたいのだろう。
「あなた方の無事をお祈りしております」
俺たちはヴリナの言われた通りに両手を門にかざす。
数秒後、レティアのブレスレットの宝玉と門に埋め込まれている宝玉が共鳴して光出す。
それに続くかのように俺と光瑠の首飾りも光り出した。
転送が始まったようだ。
光が俺たちの視界を真っ白に遮るのと同時に体が消滅していく。
遂には体は完全にその場から消えていた。
***
そよ風が気持ちよく体を吹き抜ける。
「ここはどこだ……?」
俺の呟きは風によって流された。
神殿に入る前は昼時だったのに、俺が今見ている景色は太陽が昇ったばかりで、薄暗い日の出の時間だった。
地面に色彩豊かなアサガオのような花を咲かせており、海のようにどこまでも広がっていた。
俺は瞳を擦り、再び瞳を開ける。
「夢ではないみたいだな……それにしてもこれは一体……」
神殿の中にまさかお花畑が広がっているとは思わなかった。
しばらくの間、俺はこの光景を見入っていた。
5分くらい経っただろうか……
俺は何かがこちらに一直線に向かってきていることに気づく。
「あれは——まずい!」
飛んできたものからは熱を感じたので、これは危険だと思い右へジャンプした。
これはおそらくブレス攻撃だ。
ブレスがアサガオのような花をメラメラと燃焼させながら進んでいき、最後は地面に激突した。
地面と激突した瞬間、ドーム状に炎が広がり辺り一帯を焼き尽くす。
俺はアサガオのような花が焼かれている姿を見て、言葉を失った。
直撃していたら間違いなく死んでいた……
「危なかった……」
再び俺の声は風に流されて消えていく。ブレスが飛んできた方向を見て見るが正体が分からない。
肉眼ではとらえれないほどの距離からこちらの位置を把握して、ブレスを放ってきていることが分かる。
ただものではない……まさか朝の龍がいるのか……
「確かめてみるか……」
俺はブレスを撃ってきたものの正体を確認するために走り出した。
走っている途中にもトラップが発動したかのように複数のブレスが飛んできたが、すべてを避けながら一直線に進む。
一キロメートル進んだときにようやく姿を拝見できた。
これでも運動は全般が得意な方だったので、体力はある方なのだが攻撃を避けるという無駄な動作があった分、疲れていた。
「はぁ……はぁ……やっと見つけた……」
俺が視界にとらえたのは熱気を体に纏ている朝の龍だった。
俺は朝の龍との距離が五百メートルくらいになるまで、歩いて進む。
歩いている間は一斉、攻撃はしてこなかったので話すことを許されたのだろうと思った。
朝の龍と五百メートルくらいの距離まで接近すると、圧倒的な大きさの違いを実感する。
全長はおそらく五十メートル以上あり、この距離だと全体を見ることはできない。
「あなたは朝の龍ですか?」
俺は全身の神経を研ぎ澄ましながら質問する。
多分大丈夫だとは思うが、この至近距離で攻撃されたら準備をしていない限りやられてしまう可能性がある。
「如何にも! 私は朝の龍、白夜だ。今から小僧が私の力を受けとるに値するか試させてもらうぞ!」
「まっ――」
なんて好戦的なんだ……俺は振り落とされた巨大な右手を避けるように後ろに跳ぶ。
「むやみにあなたを傷つけたくない!」
「それは甘い考えだぞ! 小僧!」
訴えむなしく、白夜の容赦ない攻撃が続く。
俺は刀を使うことなく、すべての攻撃を避ける。
俺はバトミントンを幼いころからやっていたので、動体視力は相当鍛えられている。そのため刀を使わずに避けることができていた。
俺の本心はいじめっ子のように、人の気持ちを考えないで危害を加える人にはなりたくなかった。
たとえ、種族が違っても話し合いで解決できると信じているから……
話し合いで解決できる可能性が少しでもあるのなら絶対に攻撃しないと決めていた。
さっきからブレスを一回も吐いてこない。ある程度手加減をしてくれているようだ。
根っからの悪なら手加減など絶対にしないはずだ。
白夜は本当は心優しいドラゴンだ。俺の甘い考えを正すために厳しくしているのだろう。
それは頭の中では分かっているなだが、絶対にむやみに傷つけないという気持ちが勝っている。
「これだけ攻撃しても刀を抜かないとは……」
白夜は何かを言っているようだが、ゾーンに入っている俺には届かなかった。この領域に入ると全ての攻撃がゆっくりに見える。
白夜の猛攻が終って、俺は白夜から少し距離を取る。
「小僧の気持ちは十分に伝わった。だが次の攻撃は刀を抜かないと防げぬぞ!」
白夜はとどめを刺さんとばかりの口調で言ってくるが、俺はこの場所の真実に気が付いた。
さっきまで燃焼していたアサガオのような花の姿はなく、すべてが元通りの鮮やかな状態に戻っている。
「どういう事なんだ……もしかして……」
俺は白夜のブレスを正面から受けることにした。
白夜の口は黄色かかった白色に光っている。ブレスが溜まったようだ。
「いくぞ!」
白夜は口からブレスを発射する。
俺はブレスを刀を鞘にしまった状態で体の前に出し、真正面から受け止める。
「……くぅ……熱い……」
刀とブレスが接触した瞬間、昼間の砂漠にいるような暑さが俺を襲い、全身から泊ることのない汗が水のように流れる。
「このままでは……」
両腕の服の袖が熱に負けて溶けていく。このままでは押し負けてしまう。
陽炎刀は紋章を見る限り、太陽の力を源にしている。こんな熱には負けるはずは絶対ないはずだ。
ヴリナに聞いたのだが、陽炎刀は朝の龍の力を抑え込むために作られたとされている武器で、どんなに暑さにも耐えることのできる強度を持っているらしい。さらに武器にはあらゆつものを焼き尽くす絶対燃焼の能力もあるらしいのだ。
そのことから陽炎刀は太陽刀とも呼ばれていたそうだ。
武器の強度を上げるには強うイメージ力を抱くことが大切とも言っていた。
「陽炎刀! 俺に力を貸してくれぇ!!」
俺は学校の授業で目にしたことがある太陽の構造を強くイメージする。
陽炎刀は俺の思考と共有するかのように黄色かかった白色に自ら輝きだした。陽炎刀は手が焼けるぐらいの熱を発生させている。
「うおおおおおおおっ!!」
俺は火傷したときみたいな痛みを雄叫びでかき消し、必死に耐える。
陽炎刀はブレスを自らに吸収し始め、遂にブレスはむなしく消滅した。
俺はその場に膝をついてしまった。熱のせいか服がボロボロになっていたが、すぐに元通りに戻った。
「やっぱり……」
「小僧! いつから気付いていた?」
「数分前です……」
「それを知ったから、ブレスを真っ向から受けたというのか?」
「はい……やっぱりむやみに傷つけたくないです……」
「なんという根性だ! 気に入ったぞ!」
「ありがとうございます……」
「小僧の信念にはあっぱれだ! どこまでできるか分からないが、私の力を使ってその信念を貫くがよい! 認めてやる! 小僧のことを主と呼ぼう!」
「ありがたく使わせてもらいます……白夜さん……」
「白夜と呼んでくれ! 主よ!」
「分かりました……」
白夜はは陽炎刀の中に消えていった。
これで神殿から出られると思ったのだが、いつまでたっても出れそうにない。どうやって出るんだ……
俺が自分の世界に入っていると、不意に後ろから肩をたたかれた。
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