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 それだけでも、少し変わるかもしれない。  だって嫌いじゃないから。イヤだと思った事を言おう。そうして、お母さんの思ってる事もひとつ、聞きたい。 「家に入る前に、はいコレ」  玄関先であきちゃんが紙袋をくれた。紙袋には有名な携帯会社のロゴがあって、それは神前さんの持ってるスマホと同じ会社のものだって気がついた。 「契約書は私だから。好きに使いなさい。ただし、規定の金額以上になるような使い方はしないでよ」  ウンウンと何度も頷いて、ありがとうと言えば「神前何某の番号とメッセージのIDも入れておいたから」と教えられた。ポンと叩かれて押された肩は、すごくあったかくてそして優しかった。 ♢ 「ただいま」  あきちゃんと声を揃えて帰宅を知らせると、一番に出てきたのはお父さんで、その顔に心配と不安を見ることができた。  僕に関心なんかないと思っていたお父さんが、朝のお母さんとのやり取りで家出をするんじゃないかとヤキモキしていたと聞いて、申し訳ない気になる。  ひろちゃんも慌てたように階段を降りてきて、ひどく安心した顔になる。「心配させんな」とグーで頭のてっぺんをグリグリとされて、でもそれが痛くなくて「ごめんなさい」と素直に謝れた。  羨望があった。同じ親から生まれた同じ男として、お母さんに「男らしく」と言われないひろちゃんに。スマホも部屋も友人さえ「裕哉なんだから」とある程度放置されていた事に。何より僕と違う『普通に男』である事に。
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