1

7/18
前へ
/392ページ
次へ
♢ 「じゃあ今の問題を解いたらノート提出な。昼飯食ったら取りに来るから、教卓に出しとけよー」  担任の鈴木先生は数学の先生。  今年36歳の独身。絶賛彼女募集中と背中に紙が貼られるくらいには生徒に好かれている男の先生だ。  まぁ秋には結婚するらしいので、彼女募集中ではないらしいけど。結婚は大変だぞぉ・・・と言うのが最近の口癖で、この間招待客やら席次やら決めなきゃいけないことが山のようにあるのに、普段の仕事の手は抜けないからなぁ とボヤいていたのを、たまたま通りがかりに聞いてしまった時「誰にも言うなよ」と前置きをされた上で愚痴られた。  どうやら彼女さんは強いらしくて結婚前から尻に敷かれているんだよォと涙ながらに訴えられたけど、僕にはどうすることも出来ないからただひたすら励ましていたけど、高校生に励まされる教師ってどうなんだろう。  なんてことを考えていたら授業の終わりを告げるチャイムが鳴って号令がかかる。  数学は得意な方で、先生の話を聞きながら問題を解いてしまったから、ノートを教卓に置いてそのまま教室をでる。  今日はコンビニのサンドイッチを買ってきたから、もちろん袋も持って。  ガサゴソと音を立てながら階段を登って食堂を抜けると、待ってましたというように神前さんが立っていた。 「なんだ、コンビニか」  そう言うとヒョイと片手を上げ「俺も」と笑う。強面なのに、優しそうに見えるのは反則だと思う。  男の大半は優しさをはき違えてると言ったのは姉の璃穂(あきほ)で、女の大半は男の優しさを取り違えてると言ったのは兄の裕哉(ひろや)。  でも、はき違えても取り違えてもいないと思う僕はやっぱり神前さんはきっと優しいんじゃないかと思う。
/392ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加