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「な、何の用なの。インタビューなら、宮内省を通してと言ったはずでしょう!」
「たいしたことじゃありません。平成の次の元号って、なんでしたっけ」
「そんなの、令和に決まって……」
――えっ!?
い、今……今、なんて言ったの、この男!?
「そっか、レイワ、か。どんな漢字ですか? 礼儀の礼、かな?」
短い黒髪をかきあげ、ごく当たり前の顔をして、シグルドは言った。
「俺の記憶、平成三十一年の三月で終わってるから、新元号は知らなねえんだ。そうか、レイワね。けっこういい響きじゃん」
「あ、あなた……、あんた、いったい……」
「んな、化けもん見るようなツラで見ないでくれよ。あんたと同じ、二十一世紀の日本の記憶を持ってるっつうだけだって」
そして彼は笑った。少し淋しそうに、どこか懐かしそうに。
「なあ、あんたもそうなんだろ?」
「あなたもあのスマホゲーム、やったの? え、と……何とかの乙女――」
「白夜行の乙女、な。『大聖堂の乙女』、『海賊島の乙女』に続く乙女シリーズ第三段、『白夜行の乙女』」
ああ、そうだった。たしか、そんなタイトルだった、あのアプリ。
「俺はあれの開発スタッフだったんだ。といっても、背景グラフィックの孫請けだけどな」
そう言って彼は懐かしそうに笑った。
「舞踏室のグラフィックは、ベルサイユ宮殿の鏡の間をイメージしたんだ。大会議室は赤坂離宮をモデルにした。一番凝りまくったのは格天井だったんだけど――どうだった?」
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