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一 悪役令嬢、目を醒ます
「おはようございます、アレクシオーラ様。ご起床のお時間でございます」
分厚いカーテンの向こうから控えめに呼びかける声で、わたしは深い眠りから現実へと引き戻された。
「アレクシオーラ様、公女様」
繰り返される呼びかけに、思わず枕元を片手でぱんぱんはたいて、スマホを探してしまう。
――あー、アラーム止めなきゃ。でも、おっかしいな。スマホの目覚まし、こんな音声にしてたっけ?
まあ、そんなことは後で確認すればいい。今は早く布団を出て、出勤の支度しなくちゃ。スーツは一昨日と同じ黒のパンツスーツでいいとして、朝食なんて作ってる暇はないから、またコンビニでエナジードリンクでも買って……。
まだ半分寝ぼけた頭で、必死に朝のスケジュールを確認していると。
「アレクシオーラ様、お時間でございましてよ。失礼いたします」
おだやかではあるが、きっぱりとして妥協を許さぬ言葉とともに、重たいゴブラン織りのカーテンが勢いよく引き開けられた。
真っ白い眩しい朝の陽光が、わたしの顔を直撃する。
「わっ、まぶし……っ」
「お寝坊はいけませんわ、アレクシオーラ様。謁見の儀に遅れてしまいますわよ」
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