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「今、グランマーレの王都ラ・ロワジェでは、こういう彩色写真がとても人気なんだそうです。ほら、こんなものもございましてよ」
続いてオルゲイ夫人が見せてくれたのは、同じように色がつけられた絵葉書だった。
映っているのはラ・ロワジェの王城やオペラ座、大聖堂などの観光スポット。伝統的な民族衣装を着た子供たちの写真などもある。赤や黄色のカラフルな衣装が、とっても可愛い!
「今度、うちの会社でも、こういう絵葉書を作って売り出そうかと思っているんですのよ。セルゲイ大宮殿やタイローン山脈の山並みなどのほか、もうすぐ完成するモルダヴァ新港の写真を絵葉書にしたら、きっと大人気になりますわ!」
「ええ、それはすてきなアイディアね」
でも、絵葉書のこの彩色はどうやっているんだろう。手塗りではなく、印刷のようだけど。
「それは、シルクスクリーン印刷という手法ですよ」
不意に背後から、声がした。
「厚手の絹地に穴をあけ、その上からインクを垂らして染めるんです。まあ、詳しいことは私も良く知らないのですが。印刷技術にご興味がおありですか、公女殿下?」
聞き覚えのない声。低く、黒光りする金属のような硬質な響き。
一瞬、背筋にぞくっと震えるような何かが走った。
わたしは振り返った。
そこには、見知らぬ男性が立っていた。
「……どなた?」
男性はかすかに笑った、
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