せっかく悪役令嬢に転生したのですから 一番どでかい悪事をやってやります

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 背が高く、癖のある黒髪をこの世界の男性にしては珍しいくらい短く切っていることを除けば、特に目立つところもない姿だ。  なのに……なのに、なんだろう。  なにか、言葉にできない違和感がある。 「紹介いたしますわ、公女殿下。彼はイリュージャ・シグルド。この葉書や写真のほかにも、たくさんの本や雑誌を大陸中から持ち帰ってきてくれましたのよ」 「まあ……、そうでしたの」  彼――シグルドは無言で軽く一礼した。  黒っぽいシヴィルコートに簡素な幅広タイ(クラヴァット)、カフスやタイピンも飾り気のない銀製のようだ。  中流階級の男性にはごく普通の服装だろうけど、この壮麗なセルゲイ大宮殿にふさわしい身なりとは言い難い。良く見ると、粗削りな輪郭にうっすらと無精ひげも浮いている。  ロアン皇太子やツェーレン伯爵のような、絵に描いたような美青年というのとはまったく違う。雑踏にまぎれれば、すぐに見失ってしまいそう。それこそ、乙女ゲームのヒーローになんか、逆立ちしたってなれそうにないタイプ。  そうね、せいぜいヒーローの友人か、ちょっと目立つモブキャラってとこ。  けれどその黒い両眼はためらいもなく、わたしをじっと見据えている。  なに――なんなの。  なんでそんな目で、わたしを見るの。  ためらいもなくまっすぐに。  そんなの……し、失礼よ。そうよ。無礼だわ。
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