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だいたい、わたしはそんなふうに見ていい相手じゃない。わたしは公女アレクシオーラ、このヴェルローシャ帝国において、イサドラ女帝陛下に次いで二番目に尊い身分の女性だ。
わたしと面会する時は、誰もが慎ましく目を伏せて、わたしが「顔をあげなさい」と言った時にだけ、わたしと視線を合わせることが許される。そういう存在なの。
ふつうの女性を見るように、じろじろと値踏みするみたいに見ていていい相手じゃないんだから。
そうよ、こんな無礼な男は無視してやるのが一番。
わかっているのに。
「そのお若さで大陸中をめぐって見識を深めていらっしゃるなんて、すばらしいこと。お仕事は何をなさっていらっしゃるの?」
わたしは顔の前に品よく扇をかざし、自分から彼に言葉をかけていた。
「たいしたことではありません。俺はジャーナリストです」
「ジャーナリスト……」
久しぶりに聞いた言葉だった。
いえ、この世界に転生してからは、初めてかもしれない。
「この世界に起きるすべての事象をこの目で見て、この手でありのまま書き記し、すべての人々に伝える。それが俺の仕事です」
印刷技術が進歩し、一般市民も新聞や雑誌を気軽に手に取れるようになってきたこの時代、ジャーナリストという職業が誕生するのは必然とも言えるだろう。彼らはやがてその言論によって、時代を牽引する存在となるはずだ。
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