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けれど、それを堂々と名乗る人間に会ったのは、初めて。新聞記者でも、雑誌記者でもなく。
それがどういう職業なのか、ちゃんと理解しているというの、この男は。
「以前から、この帝室図書館での勉強会を取材させていただきたいと思っていました。ここはまさに、ヴェルローシャの未来そのものですから。ですが、ツェーレン伯爵に取材を申し込んでも断られてばかりで。それで、オルゲイ夫人にお願いして、こっそり紛れ込ませてもらいました」
「あら。ではこの絵葉書は、あたくしへの賄賂だったってこと?」
オルゲイ夫人はけらけらと楽しそうに笑った。
「でもね、公女さま。彼の話はとても興味深いものばかりですのよ。今度、うちの雑誌に紀行文を書いてもらおうと思ってますの」
「まあ、それは楽しみですこと。わたくしもぜひ読ませてもらいたいわ」
適当なお愛想を言ったつもりだったけど。
「ありがとうございます。つまらないものでしょうが、殿下にお目を通していただければ光栄です」
謙遜しているつもりなのだろうが、その口元にはふてぶてしいまでの自信に満ちた笑みが浮かんでいる。
「今まで、何か国くらい訪問されましたの?」
「訪問した国は、まだ五か国ほどです。いずれは西華大陸を離れ、海外へも行ってみたいと思っています」
「五か国……」
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