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公女のわたしだって、それほど多くの外国を訪れたことはない。……というか、わたしはレオーネア河を越えたことは一度もない。外国旅行はまだまだ大変な大事業なのだ。
それを自慢するふうもなく、さらっと言ってのけるなんて。
――気に入らない。
「では、その中で、あなたが一番感銘を受けた場所はどこかしら?」
「感銘を受けた場所となりますと……やはり、故国であるヴェルローシャの風景が一番です」
当たり障りのない返事。でもそれがこの男の本心だなんて、誰も信じやしないだろう。
「まったく、これでは立場が逆ですね。今度は、俺のほうから殿下に質問をさせてください。この半年あまり、公女殿下のご活躍は目を見張るものがあります。本当にすばらしい。ですが以前の公女殿下は、ほとんど政治活動に参加されることはなかった。この突然の変化は、いったいどうしてですか? やはり、摂政皇太子殿下との婚約が解消されたことがきっかけですか?」
「まあイリュージャ! なんてことを言うの、失礼ですよ!」
それまで黙っていたオルゲイ夫人も、これにはさすがに怒りの声をあげた。
「ほんの少し様子を見るだけと言ったから、勉強会に参加させてあげたのに! 本当ならこの方は、あなたもあたくしも、足元にも寄れないようなお方なのですよ!」
「失礼いたしました、公女殿下。どうぞお許しください」
シグルドは深々と頭を下げた。
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