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二十一世紀に生まれた、あの、ぼろぼろに傷ついて擦り切れて、人生に耐えられなかった、わたし?
それともやっぱり、ヴェルローシャ帝国公女、麗しき帝国の薔薇、アレクシオーラ・リハルティヴナ・グラスニコヴァなのだろうか。……そうであって、良いんだろうか。
今まではそんなこと、考えてなかった。
生活に不自由はなく、次々に現れる問題にただ夢中で取り組んできていたから。
もしかして、あの男に会ったから?
あの男の目――わたしの胸の中に食い込んで、すべてを引きずり出してしまいそうな、あの鋭い、宝石みたいに光る目のせい……?
ま、まさかね。
なに馬鹿なこと考えてるの、わたし。
そうよ。あんな男のことなんか、これっぽっちも気にしてない。
気にしてないんだから。
「公女殿下」
「きゃ、ひっ!?」
いきなり背後から声がして、わたしは思わずみっともない声をあげてしまった。
「失礼しました。驚かせるつもりはなかったのですが」
白薔薇の生垣をがさがさ掻き分けながら出てきたのは、やはりあの男だった。
シグルドはそのまま無遠慮に、わたしのほうへ近づいてきた。
――ち、ちょっとやめてよ。こっち来ないでよ!
「実は、殿下にお尋ねしたいことがあったんです。先ほどは言いそびれてしまって」
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