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シンプルな藍色のドレス――とはいっても、裾が床まで届くスカートはふんわりと大きくふくらみ、襟元や袖口には高価そうなレースやフリルが上品にあしらわれている――に、フリルつきの室内帽(モブキャップ)――某シチューのイメージキャラクターのおばあちゃまなんかがかぶってる、アレ。もちろん老婦人用よりは小振りでおしゃれ――、キュートな眼鏡を鼻の上にちょこんと乗せた若い女性が、そばかすの可愛い人懐っこそうな顔に精一杯のしかめつらしい表情を浮かべ、わたしを見据えている。
「まったく、なんてことでしょう。ヴェルローシャ帝国の公女殿下ともあろうお方が、このごろ急に怠け者におなりあそばして。美容のための朝の冷水浴も、あんなにお好きだった乗馬も鷹狩りもなさらずに、日がな一日お部屋でごろごろしてらっしゃる。挙句の果てには、お日様があんなに高くなるまでお寝坊だなんて!」
――いやー……。朝、起きぬけに冷たいプールにどぼん、とか、それ、どんな無茶修行?
乗馬なんてしたことないし、ましてや狩りなんて、無理無理。絶対、無理!
「お急ぎくださいまし、アレクシオーラ様。謁見に遅れては、女帝陛下からどんなお叱りを受けるかわかりませんわ。イサドラ陛下は、それは恐ろしいお方ですもの。つい先だっても、陛下のお気に入りのティーカップをうっかり割ってしまったというだけで、小姓がひとり、凍土地帯へ流罪に――」
「ええ、ええ、わかってるわよ、ナタリア。その話はもう何度も聞きました」
ごく自然に返事の言葉が出た。
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