伯爵家の花嫁

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 式をつかさどる牧師が、ふたりを新たな夫婦として認めると宣言し、祝福する。おだやかな感動と善意の拍手が、さざ波のように広がった。酒井子爵も思わず、ほうっと大きな安堵のため息をついた。  晴れて夫婦となった若いふたりが、手をとりあい、ヴァージンロードを並んで歩きだす。  その時、最後の小さなハプニングが起きた。  借り物の靴でどうにか頑張っていた花嫁が、とうとうつまづき、バランスをくずして転びそうになったのだ。 「あっ!」  花嫁が前のめりに倒れこむ。  危ない、と誰もが思った瞬間。  隣にいた花婿がさっと腕を伸ばした。花嫁を軽々と両腕に抱きかかえる。 「え……、あの……」  一瞬、なにが起きたのかわからず、茫然とする花嫁に、花婿は穏やかにほほ笑んだ。 「このドレスは、いいな。スカートがかさばらないから、こうやってきみを抱きかかえるのに、ちっとも邪魔にならない」 「あ、あの、ありがとうございます。……でも、もう大丈夫ですわ。わたし、歩けますから……」 「いや。足首を痛めてるといけない。このまま外まで行くよ」  教会の外で新郎新婦を祝福するため待っていた人々は、花婿が両腕に花嫁を抱きかかえて現れるという、美しいおとぎ話のような光景を目にすることになった。
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