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「百合子は、心からお慕いできる殿方のところへ嫁ぎたいと思いますの。夫婦互いに想い想われ、いつくしみあって生涯をともにするのが、結婚というものでございましょ? お金のために結婚するなんて、苦界に身を売るのと同じですわ! お母さまはわたくしに、そんな汚らわしい女になれとおっしゃいますの!?」
――何を寝ぼけたことを。さもなきゃ、少女雑誌の読みすぎよ。
いい歳をしてちゃらちゃらと着飾り、鼻にかかったねこなで声で母親に甘える百合子を見るたび、小夜子は思い切り脛を蹴っ飛ばしてやりたくなるのを必死で我慢していた。
今日、仲人役の酒井子爵夫妻が、黒川伯爵本人を伴ってわざわざ恩田邸を訪問してくれたのも、形式ばった見合いの席などではなく、もう少し気楽な形で本人どうしの顔合わせを、との心配りだ。
けれど百合子は、自分の部屋に閉じこもって泣きわめくばかりで、かたくなに伯爵を拒否し続けている。
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