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「本当なら、あなたのような人をお客さまの前に出すなんて、あってはならないことですけど」
いかにもいまいましそうに小夜子をにらみつけ、華子は言った。
「今はほかに人がいないし、百合ちゃんがあの様子ですから、わたくしもそばを離れられないのよ。あの子はほんとに繊細で可憐で、ほんのちょっとのことでも心に深い傷を負ってしまうんですもの。ああ、可哀そうな百合子! あんなに嘆き悲しんで……! もしものことでもあったら、わたくしも生きてはいけないわ!」
まるで百合子が今にも自害してしまいそうな口振りだ。
――そのわりには百合子さん、昨日も銀座の百貨店までお出かけして、舶来の化粧品だの香水だの、山ほど買い込んでらっしゃいましたけど?
「いいこと? お茶をお出ししたら、余計なことは言わず、さっさと下がってくるんですよ! それにしても、あなた、その着物はいったいなあに? 擦り切れて、継ぎまで当たってるじゃないの。嫁入り前の娘が、みっともないと思わないの!?」
華子は、小夜子の着ている地味な絣を指し、露骨に眉をひそめた。
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