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「これ以上僕がお邪魔していたら、百合子嬢の繊細な神経が保たないだろう。悪鬼のような男は早々に退散したと、きみ、すまないが、こちらの奥さまにもそうお伝えしてくれ」
やはり、百合子の泣きわめく声はここまで聞こえていたのだ。
「お、お待ちください、伯爵さま!」
小夜子は慌てて伯爵を引き留めようとした。
このまま彼に帰られてしまったら、華子にあとで何を言われるかわかったものではない。小夜子が彼を怒らせたからではないかと、余計な難癖をつけられるに決まっている。
「百合子さんをお部屋から引っ張り出すなら、一番確実な方法がありますわ」
「え?」
「伯爵さまがご自分で、百合子さんのお部屋へ行かれるんです」
絵本に登場する王子さまとまではいかなくても、黒川伯爵はかなりの美丈夫だ。この姿を見れば、百合子もあっさり気が変わるに違いない。
「百合子さんは、おとぎ話のような白馬の王子さまを夢見ているだけですの。ですから、伯爵さまを一目見れば、すぐに結婚を承諾するはずですわ」
「それは、僕が王子さまのようだということかな? それはどうも」
伯爵は少し皮肉っぽく微笑した。
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