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華子は黒留袖をこの日のためにあつらえ、目を見張るほど大きな珊瑚玉の帯どめを飾っていた。百合子は扇面に百花を散らした京友禅の大振袖に、金糸刺しゅうの丸帯を胸高に締め、帯揚げ帯締めは鮮やかな朱鷺色。胸元にのぞく筥迫(はこせこ)は金襴で、女学生風に結った髪にも大きなリボンをふたつもつけていた。
「黒川伯爵の結婚式なら、同じような貴顕の殿方が大勢いらっしゃるはずでしょう。そういう方々に、ぜひともうちの百合子の美しさを見ていただかなければね。ええ、百合子ほど上品で可愛らしい娘なんて、帝都中探したって見つかりっこないんですから! 伯爵さまだって、こんなにきれいな百合子を見れば、自分がどれほど莫迦な選択をしたか、改めてお気づきになりますことよ!」
だが、華子がどんなに悔しがろうとも、すべては後の祭りだ。
百合子が死ぬの何のと泣きわめくほどこの結婚を嫌がっていたのは、仲人役の酒井子爵夫妻も目の当たりにしている。
男爵令嬢の子供じみたわがままにほとほと手を焼いていたところ、もうひとりの娘が、進んで身代わりを引き受けてくれたのだ。
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