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「では、無事に両家の縁談がまとまりましたこと、明日にでも拝島公爵閣下にご報告いたしましょう。いやあ目出度い。実に目出度い!」
ところが、式の日取りが決まっても、恩田家の実質的な家長である華子は、小夜子のために指一本動かそうとしなかった。
「花嫁衣裳? なんであんな人のために、わざわざ用意してやらなくちゃいけないんですか。あの人のせいで、可哀そうに百合子は、毎日泣き暮らしているんですよ! 裸で嫁げばいいんですよ、あんな恩知らず!」
どうやら華子と百合子の頭の中では、百合子が長年恋焦がれていた黒川周伯爵を、小夜子が卑劣な手段で横取りしたことになったらしい。
黒川伯爵家から花嫁のために、と贈られた支度金も、華子はほぼ全額を自分と百合子のために使ってしまった。
見かねた酒井子爵夫妻が慌てて百貨店へ行き、マネキン人形が着ていた格安のウェディングドレス一式を買ってきたのだった。
ドレスに合わせる白い靴も間に合わず、子爵夫人が自分のものを花嫁に貸すことにした。
「あら、やっぱり大きいわ。ごめんなさいね。わたし、見かけによらず大足なものだから」
「いいえ、奥さま。つま先に詰め物をすれば大丈夫ですわ。ありがたくお借りいたします」
華子の理不尽な扱いに文句も言わず、あるものだけで満足しているけなげな娘に、子爵夫人も同情を禁じえなかった。
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