伯爵家の花嫁

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 そして式当日。  教会での結婚式では、祭壇の前で待つ花婿のもとへ、花嫁の父ないしは年長の親族が花嫁を連れていく。  だがもちろん、華子はそれも拒否した。 「あら。じゃあ、わたくしがやってあげてもよろしくってよ。でも、伯爵さまが花嫁をお間違えになったら、どうしましょう?」  おほほほほ、と身をくねらせて笑いながら、けれど百合子の目はけして笑ってはいなかった。    そんな非常識なことを認めるわけにもいかず、仲人の酒井子爵がその役目を引き受けることになった。  こうして、何とか形だけは整い、結婚式は始まった。  モーニングスーツに身を包んだ、ずんぐりむっくりの酒井子爵の腕に片手をあずけ、サイズの合わないハイヒールにやや苦労しながらも、花嫁はしずしずと、祭壇の前で待つ花婿のもとへ進んでいく。  花嫁側の親族席に座った華子はいかにも憎々し気に花嫁をにらみつけ、百合子は百合子で花婿を見つめながら、思わせぶりにすすり泣いている。  その隣には現男爵である陸也が、借りてきた猫のようにおとなしく、ひとりで座っていた。この結婚式にも、華子は二美が参列することを許さなかったのだ。  祭壇の前に立つ花婿に花嫁を引き渡すと、酒井子爵の役目もほぼ終わる。  誓いの言葉、指輪の交換。子供たちが歌う讃美歌。式は何事もなく進行していった。
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