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「おめでとうございます、伯爵さま、奥さま!」
「どうぞお幸せに!」
頭上に振り撒かれる花びら、祝福の歓声。拍手。
こんなにも人々の注目を浴びるのは、生まれて初めてだ。恥ずかしくて、小夜子は思わず片手で顔をおおってしまった。
「あ、あの、伯爵さま。どうぞ、もう、おろしてくださいませ。本当にわたし、自分で歩けますから……」
「危ないよ。じっとして」
笑いを含んだ声で、周が言った。
「もう少しだから、おとなしくしていてくれ」
「は、はい……」
小さな教会は、扉から数段の階段を降りると、二間ほどで道路に面した正門がある。
そのわずかな距離が、小夜子には気が遠くなりそうなくらい長く感じられた。
自分を抱きかかえてくれる腕、広い胸。周の体温が、全身に伝わってくる。かすかに薫るのは、礼服に焚き染めた香だろうか。
小夜子にとっては、男性とこれほど近く身を寄せ合うことすら、生まれて初めてだった。
花婿が花嫁を両腕に抱き上げる。昔、西洋のおとぎ話の絵本で、そういう絵を見たことはある。けれど、まさか自分が体験するなんて、考えたこともなかった。
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