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――半世紀前。
幕末の動乱を経て、日本はそれまで閉ざされていた門戸を世界に向かって大きく開き、近代国家へと生まれ変わった。
士農工商の身分制度は撤廃され、西欧の立憲君主制を参考に新たな特権階級が設けられた。華族である。
公侯伯子男の五階級に分けられた華族はまた、その出自によって大きく三つに分けられる。
平安のころより皇室のもっとも近くに仕え続け、摂家、清華などに区分される公家華族。
旧幕時代の大名家や大旗本などが、その禄高などにより叙爵された武家華族。
そして、維新の元勲、あるいは日清、日露の大戦などの武功により、「国家に特別の勲功ある者」として爵位を与えられた勲功華族、いわゆる新華族である。
彼らは「皇室の藩屏」として、貴族院の議席をはじめとするさまざまな恩恵を与えられる代わりに、つねに高い品格を要求され、選ばれし者の義務、ノーブレス・オブリージュを果たすことを求められた。
旧幕時代、二十五万石の大名家だった黒川家が、石高と維新の功績で伯爵に叙せられたのは当然としても、その分家で家老格に過ぎなかった恩田家までが男爵位を授けられたのは、過分な恩賞と言うほかはない。
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