■ 長 月 ■

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■ 長 月 ■

 神事というものは、禊やら禁忌やらが多くて面倒だ。  ついでに言うと、結婚式ってのもいろいろ面倒が山盛りだ。結納とか結納返しとかそういう面倒臭ぇことはパパッとやっちまって、神サンの前で「結婚します、よろしくな」って言って終わればいいのに、食事会したりアレしたりコレしたり。  なんか考えるだけで疲れるよな。まぁ俺が結婚するわけじゃねぇし、どうでもいいんだけどよ。  瑞輝はボウッと目の前の儀式を眺めながら思う。  晋太郎の結婚式はまだ一ヶ月先だ。今日は全く知らないどこかの偉い人の娘の結婚前の厄払い。龍清会からの仕事は、減ったとは言いながらも週に二、三度は必ず入る。瑞輝としては、ちょっと真面目に金剛寺に通いたいのでできれば放課後はやめてほしいのだが、そういうわけにもいかず、今日も放課後を潰された。  金剛寺の桜木に改めて指導依頼に行ったのは、二学期の始業式の日だった。自分はまだまだ未熟だからいろいろ教えてほしいと頼みに行った。桜木は驚いていたが、瑞輝は真剣だった。周りが俺みたいなのを大事にしてくれるのは痛いほどわかる。そんな価値はないんだって言ってみても聞いてくれねぇんだから、俺がその価値になるしかないんだろうと思ってよ。そう言ったら、桜木は笑っていた。  黒岩神社の岩の世話もキッチリやっている。なんだか前より仲良くなれそうな気がしてきた。時々、ふっと岩とシンクロしそうになるときがあるが、それで別に体調が悪くなるわけじゃないし、世界が壊れるわけでもない。  昔の岩の記憶が入って来るのは、今への警告だったり、助言だったり。まだ瑞輝は読み取る力があまりないのでわからないが、何とか感じ取ろうと努力はしている。  あとは、周りの助けを積極的に受けることにした。前は自分は異端子だから、誰にも理解されないと思い込んでいたけど、何がどう違うのかってこともよくわかってなかった。それをちゃんと周りに伝えたら、周りは頭をひねって一緒に考えてくれる。  金物屋の百地町議親子が厄介だってのは瑞輝が愚痴ったわけではないが、どこからかそういう嫌がらせを受けていると聞きつけた伊藤が手を回したようだった。  瑞輝は国会議員の名刺を田舎の町議に渡して何になるのかわからなかったけど、大人には大人の事情ってもんがあるんだろう。コネができたと喜んだのか、次の選挙で落とされるとビビったのか、瑞輝にはよくわからないが、百地親子の嫌がらせはピタリと止まった。
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