■ 長 月 ■

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 歯車が回りはじめていた。  伊藤が言うには、俺とこの国を覆う龍気は混じり合ってるんだから、俺がうまくいってるってことは国がうまくいってるってことらしい。江戸時代は龍気も安定してたんだよと伊藤は言うが、何か突飛すぎてわかんねぇ。 「黄龍君」  伊藤が呼んで、瑞輝は我に返った。「はい」  伊藤はクイと首を曲げて、こっちに来いと指示する。瑞輝は前の儀式が終わったのを見て、伊藤の方へ行く。 「どうする? これから金剛寺まで送ってってやろうか? 五時半までには到着するけど」  瑞輝は伊藤をじっと見た。「なんで?」 「なんで? 金剛寺に行くつもりだったのにって言ってたろ?」伊藤は迷惑そうに言う。 「言ったけど…」いつもは無視するくせに。 「嫌ならここで現地解散してもいいんだけど?」 「いや、行きます。ありがとうございます」瑞輝は戸惑いながら答えた。「先生に連絡してまだ空いてるか確認しないと…」 「空いてるってさ。はい、これ車に持って行ってね」  伊藤は自分の荷物も一緒に瑞輝に押し付けた。 「聞いてくれたんですか?」 「別件で用があったから、ついでにね」  別件。瑞輝は荷物を運びながら、別に仲がよくもない桜木と伊藤に、そんなもんあるのかと考えた。 「君には精神的にも強化しておいてもらわないと困るからねぇ。まだまだお子さまなんだから。ホントに君はスキだらけで心配だよ。力を持つってことは、同時に危険も増えるんだからね。君を利用したい人、君を排除したい人、君を操りたい人、わんさかいるんだから自覚を持って、ちゃんと強くなってね」  また説教だ。瑞輝は息をついた。何度も耳にタコができるぐらい聞いた。 「君のお目付役なんて引き受けるんじゃなかったなぁ」  伊藤がぼやいた。  瑞輝は伊藤の車の後部座席に荷物を置き、運転席側にいる伊藤を見た。 「引き受けるって、誰から?」  車を挟んで二人は目を合わせる。 「そりゃもちろん、入間のジイさんから」伊藤は事も無げに答えた。  瑞輝は伊藤をじっと見た。「なんでそれ、最初に言ってくれないんですか。俺、怪しい人だと思ってずっと怖かったのに」  伊藤は眉をひょいと上げてニヤリと笑った。 「なーんで、君を安心させないといけないの。怖がってくれた方が扱いやすいに決まってるでしょ?」  伊藤が運転席に座り、瑞輝も納得できないまま助手席に座った。 「島波神社から連絡が来てね。今年は正式認定された黄龍君が来るからって盛大にお迎えしてくれるそうだよ。そういうお祭りに乗じて君を何とかしようって輩も増えるから気をつけてね」  瑞輝はフロントガラスをじっと見た。 「気をつけるってどういう風に?」  伊藤はエンジンをかけ、グイッと車をUターンさせた。瑞輝は遠心力で体を少し傾けた。 「殺されないように。あとは…」伊藤は少し考える。「そうだな、殺さないように」  瑞輝はそれを聞いて大きく息をついた。全然アドバイスになってねぇし。
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