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「もう大丈夫だって言っただろ。…って伝えといて」
「わかった」晋太郎はうなずく。「お心遣いありがとうございます、おかげさまで良好ですって言っておく」
「変な翻訳すんな」
瑞輝はプイと横を向く。
晋太郎は笑みを浮かべ、黙って瑞輝を見た。俺も十六、七の頃ってこんなだったかな。もうちょっと素直だった気がする。こいつとは比べられないか。ひねくれるように仕込まれたみたいな生い立ちだしな。
「あのさ、金…くれない?」
瑞輝がうつむいたまま言って、晋太郎は「え?」と聞き返した。瑞輝は上目遣いに晋太郎を見る。
「金だよ、金。俺の口座に入ってんだろ? ちょっと使いたいことがあって」
「何に」晋太郎が言うと、瑞輝はやっぱりなという顔でため息をついた。
「何でもいいだろ」
「いくら?」
瑞輝は少し考える。「三万円」
晋太郎はうなずいた。それぐらいなら。
瑞輝は月に一万円の小遣い以外にバイト代らしい金を受け取ってない。たまにチップをもらうらしいが、ほとんど伊藤氏に搾取されているという。龍清会からの支払いは、黒岩神社に直接入るので瑞輝の手には何も残らない。
だいたい週末も予定がみっしり詰まっている瑞輝には金を使う時間がない。小遣いのほとんどはジュースや菓子代に消えていると見える。
「だいたいでいいから、何に使うか教えてくれないか。服とか、鞄とか自転車のパーツとか」
晋太郎は瑞輝を見た。悪いことに使うんじゃないことはわかっているが、嫌がらせを受けて買い物の釣りを誰かに取られても、自分で落としたと言うような奴だから。
「まぁ…服だよ」
なんだ、その含みのある言い方は。晋太郎は苦笑いした。「三万円分も?」
「だいたいでいいって言ったろ」瑞輝は苛立つ。
「おまえ、誤摩化すの下手だな。自転車のパーツとか言ったら、値段もわからないからそうかって流せるのに、服って言うから引っかかるんだよ」
「じゃぁパーツだよ」
「じゃぁって言うな。それで本当は何に使うんだ?」
晋太郎は瑞輝を見て、瑞輝は目を伏せた。そして息をつくと小さく首を振って「じゃぁもういい」と台所を出て行った。
かわいくない奴だな。晋太郎はコーヒーをゴクリと飲んだ。同時に自己嫌悪にも陥る。珍しくアイツが金をくれって言ってるんだから出してやれば良かったんだよ。
いや、でもやっぱり使途は軽く聞いておかないと。信用してないぞって公言したようなもんじゃないか。いや、一応あいつの資産管理人としては…。十六だぞ。もう子どもじゃない。まだ子どもだ。だいたい、本人が稼いだ金だ。どう使おうが勝手じゃないか。自由に出せないってのが過干渉なんじゃないか? いや、高校生に大金は渡せない。大金じゃない、三万円だ。高校生の三万円は大金だ。しかしあの顔を見たか? すごく落胆してたぞ。言い出す前もためらってた。あいつがどういう悪いことに使う? そうだな、例えば…。例えば…。
晋太郎はため息をついた。
瑞輝に謝ろう。そして三万円ぐらい今渡してやろう。
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