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……チョキチョキ……チョキチョキ。
異世界のゲートを潜り抜けた時から記憶が無い事に気付いた。
俺は何がなんだかわからなく、とりあえず現状を把握するために周りを見渡す。
そこは広く澄み渡っている大草原。風がいくつもの波となってその上を走って行く。また丘の天辺という見晴らしの良い場所に居た為、さらに遠くの景色を眺める事が出来た。
見渡す限りに草原だと思っていたが、それは途中で途切れていて、その先には海が何処までも広がっているのがわかる。
しかし、そんな大自然に囲まれた場所に居るというのに、先程から何かをハサミで切っている音が、頭のすぐ後ろから聞こえてくる。
そして切った途端にパサッと音がして地面に俺の髪が落ちていく。
切り落としたこの髪の量………俺は既にハゲてしまったのか?。
なるほど、どうやら俺は大草原のど真ん中で散髪されているようだ。
こんな開放的な空間で散髪されるというのは非常に気分が良い……だがどうして散髪?。
「お目覚めになりましたか」
そう言われて、手鏡を手渡される。
俺の髪は良い感じになっていた。
「あれ、良い感じにとは言ったけど………(しかもハゲてねえ)」
「はい、申し訳ございません。転生先に行く前に身だしなみも良い感じにするようにと、転生の神から言われていまして……服装の準備は終わりましたが、髪型の調整だけが出発時刻までに間に合いませんでしたので、転生先の世界でも髪を切る羽目になっておりまして……」
俺はそう言われると、身体に被さっているケープをめくる。
いつの間にか服装が変わっていた。
武器と防具が取付けられており、それらの初期アイテムは旅立ちにピッタリな良い感じな代物ばかりで、ロングソード、革の鎧、革のブーツ、ランタン、それにファイアーボールの魔法が封印されたスクロールが3枚。
この装備の内容からして俺の転生先の舞台はどうやら、中世ファンタジーのような良い感じなあれなのだろう。
そしてファイアーボールのスペルを封じ込めたスクロールがあるって事は魔法も存在するという事か。
今はスクロールしかないが、魔法の何たるかを習得すれば、スクロール無しでも発動する事が出来るはずだ。
そしてレザーバッグを装備していたので、中身を確認する。
金貨2枚、銀貨5枚、パン一切れ、ビン詰の野菜スープ、小瓶のポーション2つなどが揃っていた。
「あれま……それは大変だったな。でも髪型も良い感じになったし、初期装備は俺のお気に入りばかりで良い感じだ。ありがとう…えーと、あなたは…神の1人?」
「はい、申し遅れました。私は髪の神です。またなにかありましたら呼んでください」
「うっす」
そして俺は髪の神から、最寄りの街までの道を聞いて、とりあえずそこへ向かう事にした。まあ定番な開幕だな。
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