One a quiet night three years ago

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「うそだろ」  中腰の体勢でガシッと男の両肩を掴み、派手に揺すって声を張る。 「おい! 起きろ! 死ぬんじゃねえッ!」  あの日の姉貴が頭を(よぎ)る。真っ赤な湯船。真っ青な唇。  一瞬で呼吸を見失う。パニックになった。  どうする。どうすればいい。  どうすればオレは、この男を助けられる? 「……救急車」  そうだ。救急車。救急車を呼ばねぇと。  震える左手をパーカーのポケットに突っ込む。スマートフォンを引っ張り出して、電話のアイコンをタップした。 「一一〇……じゃねぇ、あれ……違う、救急だよ……救急って何番……!?」  汗が噴き出し、冷えた夜風に体温を奪われていく。血まみれの姉貴がちらついた。指先は震え、頭が真っ白になって、かけるべき電話番号をまるで思い出すことができない。  その時、誰かがスマホを握るオレの左手をぐっと掴んだ。はっと我に返ると、男がうっすらと目を開けていた。 「やめて」  ほとんど息だけで、男は言った。 「呼ばないで」 「は!? なに言ってんだよあんた!」 「お願い」  すると男は、とんでもない行動に出た。 「放っておいて――じゃなきゃ、きみの目の前で今すぐ死ぬよ」  羽織っていたモッズコートから取り出したのは、一本の折り畳み式ナイフ。  鋭い刃先を、男は自らの首に押し当てていた。
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