バケモノノナマエ

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 ぶっちゃけると順平は、とにかく小説を書きたいから書いてるし誰にどう言われてもやめられない止まらない!というタイプの文字中毒なので。多少叩かれようが批判されようがそこまで大火傷をすることはないのだが。順平のリアル友達であり、最近スターライツに登録した友人、霧野優(きりのゆう)は別なのである。彼は自分ほど、創作を楽しむことに傾倒できるタイプではない。ある程度表がないとヘコむし、閲覧数が伸びないとしょんぼりする、でもって叩かれたらしばらく浮上できなくなるタイプだ。  自分とはまるで違う人種。だからこそ、その意見や感性は参考になることが少なくないし、正反対だからこそ友人関係が続いているのも間違いないことなのだろうけれど。  問題は――裏掲示板で最近、その登録したての友人である優が叩かれる対象に入り始めていることだ。ぶっちゃけ五ツ星作家を二度も倒して、一気に三ツ星まで上がった順平は悪い意味で話題の的であるようで自分の名前が上がることに関しては大して気にしていないのだけれど。優のハンドルネームが、ちらほら見られるようになったのは不安でしかないのだ。それも、原因が恐らく“あの”マルイタカヤ(順平のハンドルネームだ)と仲良くしているから、だと思われるから尚更に。 ――……なんか、僕にも変な信者がついてるから余計に泥沼になってるんだよなあ……。 『あのマルイタカヤと仲良くするとか、コイツも相当サイコパスに違いねーし』 『ていうか文章下手すぎクッソワロ』 『お前らいい加減マルイ先生を認めたらどうよ、二度も星野愛良に勝ったんだぞ。次の五ツ星候補は間違いなくマルイ先生だろ。だからこそ、こいつ程度の奴が親友ヅラしてんのマジ気に食わないわけだけど』 『マルイタカヤのアンチにも信者にも嫌われてるとかこいつマジカワイソーwww』  優のことだ。SNS上だけのことであっても、順平との関係を切りたいとは言い出さないだろう。それでも、この掲示板は恐らく見てしまっているし、少なからずショックを受けているに違いない。 ――本当に、こいつらの事がわからないよ。……嫉妬なのか、承認欲求なのか知らないけど。そんなに悔しいなら、もっとたくさん小説書いて応募すればいいのに。  自分の作品が入選できず、順平の作品が入選した結果悔しい気持ちになるというのならまだわかる。自分だって実のところ、他の猛者を押しのけて上位に上がれるほどの実力があるなどとは思ってないから尚更だ。  けれどこうやって騒ぐ連中の中には、そもそも応募自体をしていない奴も少なくないと知っている。最初から勝負自体をしていないのに、何故戦ってもいない相手に嫉妬を向けることができるのだろうか。  第一、こう言ってはなんだが優は順平以上の新米だ。登録した時期というより、つい最近まで読み専だったのを自分でもちょこちょこ書き始めた、というのが正しい。当然、コンテストも参加数が少ないのでまだ入選経験もない。嫉妬される要素が一体どこにあるというのか。それなのに、どうしてあんな悪意ばかりを向けられなければいけないのだろう。  順平には、掲示板の奥に蠢く無数の悪意が、一種人の姿を真似ただけのバケモノの集団に思えて仕方ない。人の悪意が顕現した存在。人でありながら人としての矜持を捨て、一時の快楽に身をゆだねた“ナニカ”。 「……よし」  とりあえず、自分がやるべきことをやろう。順平はそう心に決めて、LANEのアプリを開いたのである。
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