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「第一、それでお前と仲悪くなったみたいなポーズ取ったら、火種探している連中喜ばせるだけだろ。ヘコんではいるけど、あいつらに負けるのだけは絶対イヤだわ」
「やっぱり、悔しい?」
「そりゃそうだ!確かに俺は、お前ほどの小説は書けないし、つか元々絵の方の人間だから小説初心者なのは間違いないけど……それでも、一生懸命書いてきたのは事実なんだ。それを、アドバイスとかじゃなくてただあんな風にクソミソに貶されて……腹が立たないワケがあるかよ」
それを聞いて――不謹慎かもしれないが、順平は良かった、と胸を撫で下ろしていた。もし彼の心が完全に折れてしまっていたらどうしようと思っていたのだ。自分だって、“好き”の度合いが人一倍高いだけでどうにか己を保っただけで――叩かれて傷つかなかったわけではないのだから。
「じゃあ。……勝たないとね、優」
はい、と順平はノートとペンを取り出して優に渡した。
「次の短編コンテスト、一ヶ月も時間があるんだもの。書けるでしょ、数百文字が下限だし」
「え」
「そういうアホな奴らは、実力行使で黙らせるしかないんだよ。僕は星野愛良と揉めた件でそれを実感したね。優もWEB作家になったんでしょ。自分の作品に誇りがあるでしょ。それを貶されて黙ってたくないなら……戦って、あいつらを黙らせてやらないと!」
WEB小説は、趣味であり、人生の楽しみであり。同時に順平にとっては、自分が自分でいられる唯一無二のステージだ。そして、全力を出し切ることのできる戦場でもあるのだ。
負けっぱなしは趣味じゃない。書くだけで良かった自分だが、プライドを傷つけられた星野愛良に“全作品を削除してスターライツを退会しろ”と脅されて、その彼女を“結果”で再度叩きのめして気づいたのである。己の作品にプライドがあるなら、ただ好きというだけではいけないのだ。己の情熱は時に――絶対の“力”で証明しなければならないのである。
「コンテストのテーマは“バケモノ”でしょ。……掲示板にいて優を好き勝手に叩く“バケモノ”連中を退治するのに、これ以上相応しいテーマある?」
にやり、と笑って言ってやれば。優はぽかん、と口を開いて――順平が持つペンと順平の顔を交互で見た。
「……で、でも。一ヶ月で、書けるかな……」
「書ける書ける。むしろ長期間プロットにかかるようなネタは、短編コンテスト向きじゃないと個人的には思うし」
「お前は……」
「僕も参加するよ。僕は優の友達だけど……ライバルでもいたいと思ってるから。僕は優とも、WEB小説の世界で全力で戦ってみたいよ!」
まあ、それをするなら、プロットづくりを手伝うことはできないけどね、と苦笑する順平。彼のネタを知ったところでパクるつもりは毛頭ないが、無意識に被ってしまう可能性は十分にあるためだ。
優にも是非、知ってもらいたいのである。WEB小説の世界は怖いものだけではないということを。書くこと、そのものの楽しさを。そしてその楽しくてたまらない世界で、全力でライバルや仲間と競い合うことを――それはスポーツと同じ、たまらない快感であるということを。
誰かを蹴落とすのではない。誰よりも自分で自分という弱さを超えるため。そして、自分を否定する者達に実力で勝利するため、戦って欲しい。せっかく“想像し創造する幸せ”を誰よりも享受できる世界に踏みいるチャンスを得たのだから。
「……言ってくれるじゃねーか」
沈黙の後。優は少しだけ明るくなった顔で、僕が差し出したペンを受け取った。
「いいぜ、やってやる。……バケモノ退治、面白そうじゃねえか」
「でしょでしょ?」
今日も今日とて、妄想のプロである自分達の休日が過ぎていく。
自分達にしか知ることのできない、最高の楽しみを携えて。
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