バケモノノナマエ

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 ***  プロット作りを手伝うのはフェアじゃないから、と言いながら。順平は、優がネタを出す作業にはほぼ半日付き合ってくれた。そもそも優が書くのに時間がかかるのはプロットを丁寧に書くタイプというのもあるが、そもそもネタを決めるまでに時間がかかってしまうからである。そもそも小説を書くことそのもに慣れていないというのもあるといえばあるのだけれど。  バケモノ、と一言で言っても多数の解釈ができるだろう。バケモノのようなもの、人から。本物の“モンスター”という意味でのバケモノまで多岐に渡るはずである。 「せっかくの短編コンテストなんだもの、複数出すのもまた楽しいんだよね。まあ、時間を考えるなら一つに絞るのも全然いいと思うけどさ。一つに絞るなら絞るで、大量にネタは出して損はないでしょ。そこから、一番イケる!と思ったネタに厳選すればいいだけだし」  ドリンクバーで取って来たオレンジジュースをちゅーちゅーと吸っている順平は、とっくに成人しているとは思えないほど幼い顔をしている。未だにお酒を買う時に年齢を聞かれるというのも頷ける話だ。本人はその、スーツを着ていてさえ学生に見られかねない童顔を相当気にしているらしいが――まあ、女性の中には、こういう弟系に黄色い声を上げる者もいないこともないだろう。  残念ながら本人は、現状恋愛をする気もほとんどなく、ただ小説を書いていられたら幸せであるようだが。 「そういう順平はさ、今回いくつ書くつもりなんだよ。ネタは決まってるのか?」 「え?まあ……」  その小さい頭の中には、一体どれほどの“想像”が詰まっているのか。水を向けられ、苦笑いに近い顔を浮かべる順平。 「とりあえず、今回は五作品くらいは書こうかなーと思って。もしかしたらまだ他にも書くかもだけど。丁度他の長編コンテストも終わって、時間に余裕あるしね。一日二本くらいずつは書けるから、すぐ終わると思う」  しれっと言ってくる順平。何も特別なことを言っているつもりはないんだろうなあ、と思って少し腐りたくなる優である。彼は短編を書くともなれば、あまりSS程度の長さを出してくることがない。三千文字以上、八千文字以内が基本だ。それを、ひとつのお題でいくらでも書けるというのだから――なんとも末恐ろしいことである。  勿論それだけ書いてもノーヒット、ということもザラにあるのが順平だが。落選しても叩かれてもヘコたれる気配がないし書くことを全力で楽しみ続けられるというだけで、優にとっては十分怪物だ。  そう。自分にとっては目の前の親友も――ある意味掲示板の有象無象よりよほど恐ろしいバケモノなのである。本人は絶対自覚していないのだろうが。 ――……なんなら、お前をネタに書いてやろうか、小説。荒れる原因になりそうだけど……なんつーか、めっちゃリアリティのあるものが書けそうな気がしてならんのだけど。  果たして、そうやって試行錯誤した優と順平の作品は、最終的にどんな評価を受けることになるのか。  残念ながらそれはまだ、文字通り神のみぞ知るところである。
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