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突然佐々木さんが言い出したので、衝撃で固まった。
ぴくりと自分の頬が引き攣るのを感じる。
「なんで、ですか」
「うーん。何となく」
「はい?」
「本当に何となくわかるんです。まあ、彼を見ているのが私の仕事なので」
「そういうもの、ですか」
「スポーツ選手のコーチと一緒ですよ。自分の体より大事ですからね」
佐々木さんはさらりと言うけれど、マネージャーというのは凄い仕事だな、と改めて感じる。
「特にうちの事務所は小さいので、どうしても悠真に負担がかかってしまいますから」
だから、と佐々木さんは続けた。
「悠真にとって良くないことは、排除しなければならないんです」
「……っ…」
ちょうど信号が赤に変わった。佐々木さんは横断歩道を行き交う人たちをまっすぐに見つめている。だから私と目が合っているわけではない。
けれど、そんな佐々木さんを見ていることができず、思わず目を逸らしてしまった。
「でも最初に貴女を頼ったのは私です。悠真にとって、それが絶対に良いと思ったんですが……」
「……すみません」
「なぜ?」
間髪入れず尋ねられて、口籠る。答えられない自分が情けない。
膝の上でぎゅっと手を握り締めた。
佐々木さんはふっと息を吐いた。
「こちらこそすみません。詰問してしまったみたいで。だけど……貴女には、きちんと悠真を見てもらいたいです」
「え……?」
「あいつ、外面がいいんですよ。すぐ取り繕うっていうか……俳優としてはいい事なんですけどね。でも本質は全然違いますから」
「そんなことは……」
「あります。長年の付き合いの俺が言うんで間違いないです」
「そう、なんでしょうか」
「はい。だから、一度よく話してみてください」
佐々木さんはそう言って、にっこり笑った。
その笑顔は、どことなく柊木さんに似ている。
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