8.二人のダイアローグ

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家に着いて、職場で利用しているアカウントにメールが届いていることに気づいた。土曜日なのにご苦労なことだな、と思いながらスマホで確認しようとして、思わず手が止まる。 【優しい先輩に感謝しろ】というタイトルで、全然仕事っぽくない。 一体なんなんだ、と思いながら開封すると、本文は『勿体無いからデータ渡しとくけど、使わないやつだから安心しろ』という一文のみだった。写真がいくつかされていたので、とりあえずひとつ開いてみる。 「え」 思わず、口元を手のひらで覆ってしまい、スマホがつるりと滑った。 慌てて拾い上げ、すべての写真を確認してみる。 先日の、ハウススタジオで撮影した写真だった。 ダイニングで向かいあって座る柊木さんと私や、二人で冷蔵庫を覗いている後ろ姿、洗い物をしている様子、そして柊木さんが後ろから私を抱きしめるようにフライパンを持つショット。 すべて、私の顔も完全に写っている。むしろ二人の光景を撮ったような写真ばかりだ。 だから“使わないやつ”なのだろう。 柊木さんにピントを合わせていたはずだから、偶然撮れたものなんだろうけれど、どの写真の自分も見たことがないくらい自然に笑っていて、とても楽しそうだった。 ーーーーーこれじゃ好きだってバレバレだし。 この写真を先輩も見たのかと思うと恥ずかしくなってしまう。 それほど、写っている私は幸せそうだった。
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