8.二人のダイアローグ

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日曜日は公演後に別の仕事もあるらしく、主のいない家で夕飯を作り置いただけで、柊木さんと会う機会はなかった。 そして月曜日。出勤したあと、例のメールを送ってきた先輩にお礼を言うと、試し刷りしたからと写真を一枚貰った。メールに添付されていた、柊木さんと私がダイニングテーブルで向かい合っているショットだった。 「それにしても、相手が芸能人って大変そうだよな」 「はい?」 「え、付き合ってんじゃねーの?」 先輩はさらりとそう言った。 慌てて否定したけれど、先輩は「だからあんな無茶を言ってきたんだと思ったのに」とかなんとか呟いていた。確かに、突然私を代役に、なんて普通考えないからそう思ったのだろう。 「ま、感謝してくれよー」と先輩は、訳知り顔でにかっと笑った。 もっとも、感謝してますよ、と伝えれば、じゃあその分これよろしく、と書類を堆く積まれてしまったのだけれど。 せっかくの写真は、その中に埋もれないよう急いで手帳に挟んだ。 なんとか仕事を終わらせて定時で上がった私は、柊木さんの家に急いだ。 少し食材を買い足して、いつものようにマンションのオートロックを解除し、柊木さんがいるところに後から行くのは初めてだな、と気づいた。 主がいるのに勝手に鍵を開けるのもよくないと思い、辿り着いた玄関でインターフォンを押した。 そろそろ着きます、とか連絡ができればよかったのだけれど、あいにく未だに私は柊木さんの直接の連絡先を知らない。
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