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『はい……って柚さん!?』
インターフォンが繋がった途端、焦ったような柊木さんの声が聞こえて、返事をする間もなくぶつりと音声は切れてしまった。
すぐにがちゃりとドアが開いて、眼鏡を掛けた柊木さんが信じられないものをみるような目で私を見つめていた。
「どうしたの?」
「え?」
「今日は来ないかと思ってた」
「あれ、昨日佐々木さんには言ったんですけど……」
夕飯は用意するので、と言ったけれど伝わっていなかったのだろうか。
「あいつ……」
「すみません、帰ったほうがいいですか?」
「え、だめ」
柊木さんの手が、がしっと私の手首を掴んだ。
ぐいっと引かれたものだから、よろよろと玄関の中まで進んでしまって、背後でばたんと大きな音を立てて扉が閉まった。
「ごめん」
「いえ……」
「ちょっとびっくりして。さ、どうぞ」
柊木さんは、私が手にしていた食材の入ったバッグを持ってくれて、すたすたとキッチンに向かってしまう。
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