8.二人のダイアローグ

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後について廊下を抜けてキッチンに進むと、リビングでは音楽が流れていた。 柊木さんは少し音量をさげながら、 「ごめんね、練習してて」 「イベントで歌う曲ですか?」 「そう。昔やったミュージカルの曲なんだけどね。久しぶりだから歌詞を思い出さないと」 確かに、お客様の前で歌うのに歌詞を見ながら、というわけにはいかないだろう。 「変な話だよね。前に本番やってるんだけど」 「でもその後何本も別の舞台やってるんですよね?それ全部覚えてられるわけないと思いますけど」 「そう言ってもらえると有難いよ」 中には一度やった役のことは忘れないで欲しい!と言ってくるファンもいるらしい。 その役がそれだけ気に入ったってことなんだろうけど、ただでさえひと作品で覚える量が多いんだから、無理な話だと思う。 「人間には反復作業が大事なんだなって痛感する」 そう言って笑った柊木さんは、楽譜に目を落としている。 何か話さなければと思って来たものの、小さく口ずさむ柊木さんの歌に、意気込んできた気持ちが凪いでしまった。 炒め物をしていると聞こえないけれど、柊木さんの歌声を独占しながらの夕飯を作るなんて、とても贅沢だと思う。 練習がひと段落したところで、夕飯を食べる。二人きりでどうなることかと思ったけれど、柊木さんは美味しいといいながら食べてくれて、さっき歌っていた曲やイベントの内容を教えてくれて、まったく今まで通りの食卓だった。
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