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明日も仕事だからあまり長居はできない。
片付けを手早く終えると、山のように積まれたポストカードにサインをし続けている柊木さんの向かいに座った。
「あの」
「あ、もうこんな時間か」
柊木さんはペンを仕舞うと、立ち上がった。
待って、とその背中を目で追うけれど、途端に、あれなんていうんだっけ?と頭が真っ白になった。
ーーーーー好きです、と伝えて。あのキスの意味を、聞いて。
ぎゅっと組んだ手を握りしめると、俯いた視界に白い封筒が飛び込んできた。
「え?」
「これ、受け取ってほしい、です」
間近に立った柊木さんは、まるで舞台の上にいるときのように真剣な瞳だった。
その気迫に押されるように、封筒を受け取って、中身を確かめる。
「千穐楽の、チケット?」
「柚さんが、舞台を観たくないんだろうなって言うのはわかってるんだけど。でも俺からは切り離せないものだから」
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