9.何度でもコールバック

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「どうでした?」 「拍手しすぎて手が痛いです」 「今日のカーテンコールは長かったですからね」 終演後、人混みのなかで何とか佐々木さんを見つけた私は、流れに逆らうように楽屋へ向かっていた。 関係者以外立ち入り禁止の扉をひとつ入れば、先日怪我をした柊木さんの元を訪れた時にも通った通路だ。 ただスタッフの人通りが激しくて雰囲気はまるで違ったけれど。 「今日中にセットをバラして、大阪に出発するそうです」 さすがに昔を思い出しても、千穐楽の舞台裏にお邪魔したことはない。物珍しそうに見ていたからか、佐々木さんが説明してくれた。 セットや衣裳を合わせるとトラック数台分にもなるという。 千穐楽のあとは戦争だ、と言っていた父の言葉を思い出す。多分今日が一番忙しい日だろう。 エレベーターで楽屋エリアに向かうと、その通路は役者や面会客で溢れていた。 一番奥の柊木さんの楽屋まで、人集りをすり抜けながら歩いていく。手前の大部屋はアンサンブルに、主役は奥の一番広い個室楽屋を当てがわれるらしい。 何度も、すみませんと会釈を繰り返し奥まで辿り着く。 暖簾越しに声を掛けようとした佐々木さんの動きが、ぴたりと止まった。 思わず見上げると、珍しく困ったように眉尻を下げている。 と、同時に中の声が聞こえてきた。 「悠真さん、何でメイク落としちゃったんですか?!一緒に写真撮って欲しかったのに!」 「ごめん。ちょっと急いでて」 「そんなー。東京楽ですよ?みんな撮りたがってたのに」 「ごめんね。でも大阪があるじゃない」 「そうですけどー」 「終わってからだとメイク崩れるし、大阪では始まる前に撮ろうよ」 「うーん、でもこの衣装がお気に入りなんですよー」 「じゃあ大阪の舞台稽古は?」 「今日載せたかったのに」 「ごめんね。とりあえず着替えるから…」 柊木さんが会話を打ち切った後、すっと暖簾の隙間から出てきた女性の姿に、思わず息を呑んだ。
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