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シンプルな白いドレスを着たその人は、婚約者を演じていた女優さんだ。貰ったプログラムで休憩中に名前を確認したはずだけど、咄嗟のことで思い出せない。
むすっとして出てきた彼女だが、佐々木さんを見ると一変してにっこり笑った。
「お疲れ様です、佐々木さん!」
「ご無沙汰してます」
「本当ですよ〜。あ、柊木さん、着替えるそうですよ」
「はい。早乙女さん、東京公演ありがとうございました。大阪もよろしくお願いしますね」
「こちらこそです。佐々木さん、大阪いらっしゃいます?」
「そうですね。ベタではないですけど」
「じゃあまたみんなでご飯行きましょ。東京は慌ただしかったし」
「はい、ぜひ」
「やった!」
細い体が喜ぶとぴょこぴょこと跳ねる。やっぱり可愛い。舞台上でみるよりさらに。
「佐々木?早いね」
ふいに暖簾の合間から柊木さんが顔を出した。
それに女優の早乙女さん、が表情を輝かせる。でもその前に。
「柚さん、入って」
「えっ?」
ぐいっと腕を引かれて暖簾の内側に引き込まれた。畳に上がる前に慌ててにもつれるようにして靴を脱ぐ。パンプスがころんと転がった。
「では、早乙女さん、また」
佐々木さんがにこやかに挨拶をして後に続いてくる。
暖簾の外で何やら文句のような声が上がっていたけれど二人はまるで気にしていないようだ。
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