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「来てくれてありがとう」
楽屋の真ん中まで進むと、柊木さんの手が離れていく。
「こちらこそ、ご招待ありがとうございました」
「……どうだった?」
小声で尋ねてくる柊木さんに、受けた衝撃をそのまま伝えようとして。
「ごめん、待った!」
「え?」
「後でゆっくり話そう?なんか緊張してきた」
そう言って柊木さんは頬を搔く。
「悠真、シャワーは?ていうか全然片付いてないけど」
佐々木さんの呆れた声が響いて、改めて楽屋内を見渡すと、たしかに荷造りの真っ最中といった感じだ。
スーツケースや段ボールが置かれているけれど、詰められていないものがまわりに溢れているし、鏡前にはまだメイク道具も並んでいる。
「わかってるよ!」
「とりあえずシャワーして。はい」
佐々木さんがバスタオルを渡すと、柊木さんは大きく息を吐き出して部屋の隅の洗面スペースに消えていく。
一方やれやれ、とため息をついた佐々木さんだけど、どこかほっとした表情でその背中を見送っていた。
「良かったですね。東京公演無事に終わって」
「本当です。柚さんも観に来てくれましたし」
「それは別に」
「良かったんですよ。さて、とりあえず片付けないと」
「あ、手伝います」
佐々木さんは柊木さんの着替えやメイク道具をを仕分けながらスーツケースに詰めていく。
私は持ち込まれた加湿器やポットなどの家電を箱に詰めることにした。
「すみません、こんなつもりでお呼びしたわけじゃなかったんですけど」
「大丈夫ですよ。それに私、今は柊木さんの身の回りのお世話する担当ですから」
「ふっ。そうでしたね。それにしても全然片付けが上手くならないな」
佐々木さんは楽屋を見渡してまたため息を吐いた。この前来た時より明らかに散らかっているから、多分片付けようとした結果だろう。でも収納は得意ではないようだ。
「お家は綺麗ですけどね」
「本人も自覚があるだから物を置かないようにしてるみたいですよ」
たしかに柊木さんの家には必要最低限の家具以外はほとんど置いていない。楽譜やCDは綺麗に保管されているようだったけど。
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