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うーんと唸っていると、知らぬ間に伸びてきた指に顎を掬われた。
ちゅっと軽く口付けられて、びくりと肩が震える。
それでも目を閉じれば、今度はしっとりと唇が重なった。
時折啄むように舐められ、逃げようとしてもあっさりと捕まって、今度は宥めるように優しく口付けられる。
「んっ……」
何度も繰り返して息苦しくなってきた頃、ようやく唇が離れていった。
間近に柊木さんの濡れた唇が見えて、かっと体が熱くなる。
そんな私に気づいてか、柊木さんはそっと背中を撫でてくれた。
「ね、柚さん。不安があったら何でも言って」
「……え」
「お互いに何でも言って何でも聞く。それだけ約束しよ」
私が子どもの頃に感じた恐怖は、置いていかれることと言葉を嘘だと知ってしまうことだった。それは多分、柊木さんには当てはまらない。母と柊木さんは違う人間だから。当たり前のことなのに、時々立ち竦むように捕われてしまう私に、柊木さんは約束をしてくれる。
「はい、ありがとうございます」
「ん」
満足そうに頷いた柊木さんは、また唇を寄せてくる。
今度はさっきよりも強く。ぎゅっと閉じた唇を抉じ開けるように舌先が動く。
ぞわりと背筋に快感が走って、思わず柔らかいソファの上を後ずさった。
「やっ……」
「ごめん、それは聞けないかも」
「何でもって言ったのに……」
「じゃ、まず本当に嫌か聞かせて」
そう言って、もう何度も目にした笑みを浮かべた柊木さんは、長い指で私の唇をなぞる。
深い瞳に捕われて目を逸せない私の方が、明らかに不利だ。
「好きだよ」と囁く声に、抗うことはもうできなかった。
End.
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