Prologue♤Gigolo

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Prologue♤Gigolo

♤  目に止まったのは耳に隠れる刺青(いれずみ)だった。空模様を潜るかのようなスカーレットの花。常夏を思わせるトロピカルな意匠が超俗的。  それと指先の演奏者にある独特のタコも。よく見なくても、フィーリングで分かった。きっと、(きら)めくトランペットが相棒だって。 ……扉の開く音は、始まりを予感させる音。ウィンドチャイムの噪音(そうおん)みたいに涼やかな。見送る風に後ろ髪を引かれる思いで(たたず)んだ。  クラブハウスの近く、終電間際の喫茶店。奇麗な女がショーウィンドウに映っている。  遠い冬に彼女はショート・カットだった。女の髪が大胆に短いとセクシーに思う俺は、柔らかな薄茶の髪を耳の後ろに掛ける仕種(しぐさ)、それだけの指の動きに目が吸い寄せられた。 ……ただ、すれ違っただけで心臓が暴れる。  さらさらと銀の(くさり)が連なったイヤリング。その光を放つダイヤのモチーフが揺れるのをただ見ているだけで催眠術に掛かるようで。
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