108人が本棚に入れています
本棚に追加
Prologue♤Gigolo
♤
目に止まったのは耳に隠れる刺青だった。空模様を潜るかのようなスカーレットの花。常夏を思わせるトロピカルな意匠が超俗的。
それと指先の演奏者にある独特のタコも。よく見なくても、フィーリングで分かった。きっと、煌めくトランペットが相棒だって。
……扉の開く音は、始まりを予感させる音。ウィンドチャイムの噪音みたいに涼やかな。見送る風に後ろ髪を引かれる思いで佇んだ。
クラブハウスの近く、終電間際の喫茶店。奇麗な女がショーウィンドウに映っている。
遠い冬に彼女はショート・カットだった。女の髪が大胆に短いとセクシーに思う俺は、柔らかな薄茶の髪を耳の後ろに掛ける仕種、それだけの指の動きに目が吸い寄せられた。
……ただ、すれ違っただけで心臓が暴れる。
さらさらと銀の鎖が連なったイヤリング。その光を放つダイヤのモチーフが揺れるのをただ見ているだけで催眠術に掛かるようで。
最初のコメントを投稿しよう!