One♡Widow

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「あんたの名前は? 名前くらい教えてよ」 「……何で? お姉さんもしつこいですよ」  緑のカーディガンの(ひじ)をステップにかけ、腕捲りした筋肉質な二の腕に(うろこ)模様の刺青(いれずみ)。胡座をかいた格好で睨みを利かせた少年は、スタイリッシュな黒縁の眼鏡の向こうから、剣呑にも邪魔するなという目で訴えて来る。おっかないが、妙に読書家で、寡黙(かもく)なのだ。 「じゃあ、ニックネーム。愛称を教えてよ」  話しかけてもスルー。返事してくれない。駐車場の野良猫みたいに可愛くてつれない(・・・・)。そわそわ立ち上がり、日陰に隠れてしまう。ついつい追いかけて近づいたら、逃げるし、手を伸ばしたら、スッと獣の動きで避ける。柔らかそうな栗毛(くりげ)の髪に触ってみたいのに。 「逃げちゃわないでよ。オレンジは好き?」  だけど、そんな風だから、気になるのだ。バスケットから取り出して、背中に投げた。裸足で直に感じる地熱はチリチリしている。摩擦熱さえも混凝土(コンクリート)を踏み込んだら感じた。アルミのフライパンで焼かれているみたい。火(あぶ)りにあう魔女たちの気持ちが分かった。
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