109人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんたの名前は? 名前くらい教えてよ」
「……何で? お姉さんもしつこいですよ」
緑のカーディガンの肘をステップにかけ、腕捲りした筋肉質な二の腕に鱗模様の刺青。胡座をかいた格好で睨みを利かせた少年は、スタイリッシュな黒縁の眼鏡の向こうから、剣呑にも邪魔するなという目で訴えて来る。おっかないが、妙に読書家で、寡黙なのだ。
「じゃあ、ニックネーム。愛称を教えてよ」
話しかけてもスルー。返事してくれない。駐車場の野良猫みたいに可愛くてつれない。そわそわ立ち上がり、日陰に隠れてしまう。ついつい追いかけて近づいたら、逃げるし、手を伸ばしたら、スッと獣の動きで避ける。柔らかそうな栗毛の髪に触ってみたいのに。
「逃げちゃわないでよ。オレンジは好き?」
だけど、そんな風だから、気になるのだ。バスケットから取り出して、背中に投げた。裸足で直に感じる地熱はチリチリしている。摩擦熱さえも混凝土を踏み込んだら感じた。アルミのフライパンで焼かれているみたい。火炙りにあう魔女たちの気持ちが分かった。
最初のコメントを投稿しよう!