One♡Widow

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「食べ物を粗末に……しちゃいけませんよ」 「この字は何て読む? どこで買ったの?」  転がるオレンジを片手で捕まえた少年の、正面に回り込み、Tシャツの裾を掴み取る。難しい漢字で花の名前が筆で書かれていた。 「どこでもいいじゃんか。……欲しいの?」  思わず拾い上げたけれど、不意を突かれ、間合いに入り込まれたせいか慌てながらも、彼の固まった顔がきょとんとして、可愛い。手持ち無沙汰にオレンジを右手で(もてあそ)んでは、難しい漢字のプリントされた白いシャツを、顎を引いて見下ろした少年は思案顔だった。 「知らないで着てるの? 花の名前だよ!」  私は(すそ)をぎゅっと握ったまま、離さない。困ったように眉を下げた少年は俯き加減に、頬にかかる長めの前髪を後ろへ撫で付けた。日溜まりの()け入る淡い青の瞳に見惚(みと)れる。その手の指三本程で握っていたオレンジを、私のバスケットにぽんと少年は(ほう)り込むと、指を挟んだままの辞書を胸元に引き寄せる。 「読めないけれど、字を見たら分かるよ?」
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