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……いちゃいちゃするカップルが通るのを、後ろ手に扉を押さえて通してやる独身の俺。こんな鬱屈した惨めな気持ちを癒すものは、酒か音楽か……あとは――女しかないよな。
美女の跡をつけるしか能の無い悪足掻き。凍える向かい風が吹くと頬がチリチリする。女の髪から香水のパフュームが噎ぶようだ。上着の襟を立て、酒場の暗がりに逃げ込む。
……朝までパーティーだって騒いでいる声。俺は独りで飲む。お祝い気分じゃないから。
ギムレットを午前零時、目覚まし代わりに少しずつ口にするようなミステリアスな女。華奢な肩やデコルテが露で寒そうに見えた。砂時計の形のアワーグラス・ドレスは淡紫。
飴色な一枚板のカウンターに細身を預け、無表情で目を回しながら、グラスを傾ける。キュッとくびれたウエストの何て細い……。水のように飲む酒はどこに消えるのだろう。
ルージュの唇は肉感触で堪らなく好みだ。仔犬みたいにグラスの縁を齧る癖があって、硝子を小さな歯で噛むようにして飲むんだ。
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