Prologue♤Gigolo

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 俺は背中合わせで淡い水音を聴いていた。悩ましい女の指先がグラスの縁をなぞると、鼓膜の骨に響く音叉(おんさ)のような高音がしたよ。ドキドキよりゾクゾクする興奮は浅ましい。  無意識に手癖も悪くグラスを盗むくらい、酔い()れた。魔性の女に俺はイカレている。ストーカー気質でも、(やま)しいことは隠すさ。女の尻を追いかけ回す救えない男だからね。  彼女が知らない男と(おど)るのを盗み見たよ。何度もな。声を掛けるタイミングを失って。内気なんだ、俺は。誰とも上手く話せない。女と間が持たなくてキスするような愚図(ぐず)さ。  身体が熱を持ったまま(こも)っていて冷めず、水気を帯びた吐息でゆらりと波紋が広がる。幽かなキャンドルの炎から(にお)やかに漂った。心の奥に(ふう)じ込めるような暗がりの狂熱が。  嫉妬に狂ってEDM(・・・)なんか聴こえないんだ。集中したら時々何も聴こえなくなるだろう。そんな感じさ。俺は一点に全神経を集めて、彼女のことだけ心の中に感じていたかった。
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