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パイロットフィッシュの眠る水槽越しに、どうかしたかのように笑い転げている美女。真円のスカートの裾のシルエットを追った。俺の生き霊は彼女の傍で浮遊して踊り狂う。
スローステップ踏んで無重力に倒れ込み、危なげなく、細い腰を抱き留めた男の腕に、激しく浮き沈みする俺の意識はシンクロし、カーッと熱が出そうで、キツく目を閉じた。
憑依する幽霊って、こんな感覚なのかな。こんな狂おしい気持ちで、取り憑くのかな。男に乗り移ったまま、愛する女を抱いたら、そのうちに気が触れてしまうに違いないよ。
稚魚がキスする冷たい硝子の断面を舐め、赤い舌を出す狂人と目が合えば正気になる。襲って来た落胆は事後の比じゃないぜ……。
仰け反って見上げる天井は海の底みたい。ゴミゴミした都会の極彩色のクラブハウス。真冬の遅い時間でも賑わって熱気ムンムン。Virusの泳いでいる漆黒の箱も同じだろう。
粉塵も浮き彫りにする強い光に照らされ、無声で叫びたいくらいに極まっている俺は、目醒めていながら狂った恋の夢を見ていた。
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