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男の肩口で涙する彼女と目が合ったから。その瞬間から――逃れられず魔法にかかり、痛く磔にでもされたように動けなくなった。まるで蛇に睨まれた蛙だ。怖くて堪らない。呪術的な北風が吹き、死にゆく季節を想う。白痴美の微笑は冬の日溜まりのようだった。
心の壊れた女の見透かす視線は冴え渡る。凍えそうなくらいに温度のない冷めた目だ。高いヒールの足音は脅迫的。影が忍び寄る。
しかしアンバランスに笑顔は酷く優しい。強迫観念に駆られ、反射的に笑うみたいな、ずっと笑顔でいなけりゃ痛い目に遭うって、怖いほど知っている世渡り上手な女の唇は、猛毒に麻痺して引き攣っているが、奇麗だ。
「コンビニのバイト君じゃん。ハロー……」
真冬に口から溢れた果敢無い白い吐息や、雪化粧を美しいと思う荒んだ心と似ていた。恐ろしく偉大で、包み込むように溶け入る。
恋に落ちたのは厳密に言えばXmasだが、出会った頃から彼女の瞳には色がなかった。やさぐれていて、物欲しそうでいて、淡白。
「あれっ、ちょっと……無視しないでよ!」
蠱惑的な女に強く抱いたのは畏怖だった。怖気付いた俺は尻尾を巻いて逃げ出す……。
真逆様に落ちていくような恋をしたんだ。
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