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とても上手く目を合わせられなかったが、チラチラと横目で熱心に追いかけるうちに、彼女と何度も視線でお喋りすることになる。
ご近所さんで趣味も合う。何度も出会い、真冬から真夏の間に、すれ違っては別れた。
会話もなく、甘いアイコンタクトのみで。見つめ合うだけで分かり合える訳ないのに。でも手段は他にある。言葉の限りじゃない。抱き締めたら伝わるって、よく言うだろう。
触れ合わなくたって甘い目に感じられる。それくらい俺の感性はおかしくなっていた。悩殺される……。目で殺すとはこのことさ。
住所不定の俺はカラオケボックスで眠る。仕事はたまにね。倒れるほど女と寝ている。独りになりたい夜は夢現でも口遊んでいた。
彼女の視線を感じて毎夜毎夜、眠れない。そんなもの……ありはしないのにだよ……。これこそが恋さ。独りきりで始めるものさ。
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……扉が開いて閉まる音がし、予感がする。夢かと思った。目の前に彼女が立っている。
「バイト君、一人カラオケ? 歌上手だね」
「いきなり何だ。今、俺……客なんだけど」
恋が終わる時、愛を知るような恋愛をし、花びらが浮かれ舞い上がるような春の日に、微笑む彼女が囁いたフレーズを覚えている。
「可愛い声をしているね。もっと歌ってよ」
ピュアな恋愛は、二人きりでするものさ。
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二人の行動範囲内に重なるクラブハウス、イルミネーションのコンビニエンスストア、籠もった伽藍堂の匂いのカラオケボックス、地下にある肌寒いインターネットカフェで、澄まし顔をした無邪気なシャイ・ガールと。
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