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One♡Widow
♡
ピクニックに出掛けるならお昼前がいい。真夜中でも、トワイライトでもいいけれど、気になっている子に会えるのは夕暮れだけ。四畳半のアパートメントが黄昏に染まる頃、無色のイノセントなワンピースに着替える。
「あの子になんて言おう。ううん、まず名前を聞かなくちゃね」〈その前に名乗ろうよ〉
神秘の香り。アロマ・キャンドルの窓辺。シャープな横顔が雫の伝う硝子に映り込む。合わせ鏡の隙間で反響するラジオのノイズ。お天気屋にコロコロ変わるTVのチャンネル。ペディキュアを塗る乙女の眼差しは物憂げ。
「何て名前にする?」〈可愛いの考えてね〉
したいことと、持ち物と……誘い文句と、独り言を呟いたらAIが律儀に返してくれる。遠い冬が終わる頃から眠る前には悩んだが、途方も無い夢想家の思考は纏まらないまま、夏になろうとしていた。今夜こそは誘おう。
「ハンカチなんか普段、持たない女がさぁ、淑女になれる?」〈節度ってものがあるわ〉
水玉柄のスカーフを巻いたバスケットに、星型のシールの光るバレンシア・オレンジ。魔法瓶にはキーンと冷えた微炭酸のソーダ。元気になるビタミンカラーのサプリメント。アーモンドとシュリンプの癖になるお菓子。凡そ、腹の足しにもならないものを詰める。
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